脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対して外科治療が勧められるか? 推 奨: 外科治療を行うよう提案する。(2C)
*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフはSRSに含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。
脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み,炎症による痛み,頭蓋内圧亢進に伴う ..
b.ビスホスホネート(BP)
・ 強力な破骨細胞抑制効果を持ち,また副作用が少ない.現在は最も効力の高いゾレドロン酸が使われている.ゾレドロン酸は4㎎を生理食塩水または5%ブドウ糖溶液 500mL に溶解し,15 分で点滴する.
・ 血清カルシウムは 2 日後から低下し始め,6~10 日で最低となる.副作用としては,発熱・感冒様症状を10~20%に認めるが,特に処置が必要な場合は稀である.
c.カルシトニン
・ エルシトニンⓇ 40 単位を生食50mL で点滴静注または筋注で 1 日 2 回投与する.数時間で効果があるが 2,3 日で不応性となる.
・ 急速にカルシウムを低下させる必要がある緊急時にはビスホスホネートと併用される.
d.ステロイド
・ 特に血液腫瘍による高カルシウム血症で有用で,通常プレドニゾロンⓇ20~50㎎ /dayの経口投与または点滴静注を行う.
e.デノスマブ(denosumab)
・ ビスホスホネート耐性の高カルシウム血症においての効果が報告されている.
・ 1 カ月以内のビスホスホネート投与にもかかわらずcCa > 12.5㎎ /dL の患者に対して,デノスマブ120㎎をD1,8,15,29,その後 4 週ごとに投与したところCaは投与後 4 日目前後に低下開始し,2 週後には大部分で正常化しており,有効なことが示された4).
*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフはSRSに含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。
・緊急照射の対象となる病態として,推奨できるエビデンスのある上大静脈症候群と脊髄圧迫につ
2 )腫瘍崩壊症候群(TLS:tumor lysis syndrome)
①病態,症状,頻度
・ 腫瘍が急激に崩壊するため細胞内物質が血液中に大量に放出され,生命にかかわる危険な状態を来す.
・ 化学療法が多いが,放射線療法,ホルモン療法,分子標的療法,免疫療法でも起こり,分子標的・免疫療法では遅く発現することがある.
・ 高尿酸血症による腎不全,高カリウム血症による心不整脈,高リン血症,低カルシウム血症による筋痙攣,テタニー,心不整脈が問題になる.
・ 婦人科がんでの頻度は低いが,各腫瘍において,症例報告がある5).
②治療
・ 治療開始前にリスクの高い患者(表28)を認識し,予防することが重要である(表29).
・ 可能であれば治療開始前 24~48 時間から十分な輸液を開始し,十分な利尿をつける.尿アルカリ化により尿酸は溶けやすくなるが,ヒポキサンチン,カルシウムは析出しやすくなるため推奨されない.
・ アロプリノール,フェブキソスタット:リスクのある間はアロプリノール300~900㎎ /day あるいはフェブキソスタット600㎎を経口で投与する.比較試験での尿酸低下はアロプリノール200~600㎎ /day<フェブキソスタット120㎎ /day,アロプリノール300㎎ /day=フェブキソスタット 60㎎ /day と考えられる.
・ 治療開始後数日は毎日電解質,尿酸をチェックする.カリウム,カルシウム異常のある場合は心電図モニターを行うとともに輸液で補正する.
・ 腎不全出現時は早めに透析を行い,電解質を補正する.
・ ラスブリカーゼ: 尿酸代謝酵素,アロプリノールよりも急速かつ著明に尿酸値を低下させ,またキサンチンを増加させないので尿アルカリ化不要という利点がある.0.2㎎ /㎏ /day for 3-7 days(day 0 or day1-)を投与する.副作用として頭痛,発疹,アナフィラキシー(1%以下)が挙げられる.
薬以外の治療法:
放射線照射
コルチコステロイド投与と同時に開始する。
減圧術
放射線照射やコルチコステロイド投与にもかかわらず症状が進行する場合、次の条件のもとで適応となる。
全身状態がよいこと。
生命予後が月単位あると見込めること。
脊椎転移が単発であること。
4)リンパ浮腫
■診 断
リンパ浮腫は高蛋白性浮腫であり、慢性炎症や線維化を伴う。四肢のいずれかに起こるが、体幹部の浮腫を伴うこともある。原因のほとんどは、がんの再発や転移、がん治療による。とくに腋窩部や鼠径部のリンパ節への転移、骨盤内再発、あるいはリンパ節廓清によって生じる。
症状は、腫大した部位の締めつけ感、運動制限、機能低下などで、腋窩リンパ節転移に伴うリンパ浮腫では神経障害性の痛みを伴うことがある。
転移性脊髄圧迫のある患者にデキサメタゾンを投与する[Ⅱ,A]。用量は 1 日
a.循環血漿量低下による末梢循環の低下
・ 浮腫・胸腹水と塩分貯留を伴う低ナトリウム血症:肝機能低下,悪性胸腹水貯留,静脈閉塞,心不全などがん患者の病態に伴いしばしば見られる.
・ 脱水状態を伴う低ナトリウム血症:重症下痢,急性出血,胸腹水の排液,イレウスなどで起こる.尿からのNa 喪失はシスプラチンによる塩分喪失性腎症,副腎不全,サイアザイドの使用,あるいはくも膜下出血・頭蓋内手術に伴う中枢性の塩分喪失などで起こる.
b. 循環血漿量低下を伴わない低ナトリウム血症(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群,SIADH)
・ 腎集合管における水再吸収が促進されるので,体液量が増加し希釈性低Na 血症が起こる.種々の腫瘍,頭蓋内疾患,肺疾患,薬剤に伴って起こる.
・ 腫瘍からのADH 分泌は肺小細胞癌が最も多いが種々の腫瘍で起こり得る.婦人科領域でも,子宮頸癌,卵巣などの小細胞癌に伴うADH 分泌が報告されている8).
・ 原因薬剤としてはビンカアルカロイド,サイクロフォスファミド,メルファランなどが多い.抗がん薬以外ではニコチン,カルバマゼピン,バルビツレート,モルヒネ,SSRI などが知られている9).
・ SIADH の診断基準:1)低ナトリウム血症,低浸透圧血症,2)尿中ナトリウム排泄20mEq/L 以上,3)尿浸透圧>血漿浸透圧,4)脱水症状なし,5)副腎,甲状腺,腎機能正常.
③治療
・表30 に示す.
しかし、生命予後が週単位から日単位と予測される患者では、ビフォスフォネート製剤を投与しても、患者の症状マネジメントにつながらないことがある。したがって高カルシウム血症と診断したら、治療するか否かは患者の全身状態、生命予後などを総合的に判断する必要がある。
3)脊髄圧迫による症状
■診 断
脊髄圧迫の場合、90%以上の患者で痛みが先行する。痛みは頚部の屈曲、下肢の伸展や挙上、咳、くしゃみ、無理な運動で悪化する。痛みのある部位には棘突起部の叩打痛がしばしばみられる。痛みの発生から週単位あるいは月単位の後に脊髄横断症状(下半身の運動・知覚障害、膀胱直腸障害など)が出現する。
脊椎単純撮影では、椎骨の破壊像、変形、虚脱を認める。MRI(核磁気診断装置)による検査は、圧迫部位の詳しい同定に有用である。
■治 療
薬による治療法:
コルチコステロイド
デキサメタゾンあるいはベタメタゾン8~12mg/日で開始する。高用量を1週間継続し、2~3週間かけて漸減する。プレドニゾロンを用いてもよい。
骨転移診療ガイドラインでは、脊髄圧迫症状を呈する転移性脊椎腫瘍の手術は機
1 )頭蓋内圧亢進
①病態,症状,頻度
・ 腫瘍に伴う脳転移,脳出血,髄膜炎などによる脳圧亢進;頭痛,嘔気,意識障害,脳神経障害などが生じる.婦人科がんでは稀であるが,注意すべき症候群である10).
②治療
・ 頭蓋内圧亢進が疑われたらすぐに脳圧を低下させる治療を開始するべきである.
a.過換気
・ 最も迅速に効果が出るが数時間しか十分な効果がない.挿管,人工呼吸を開始しpCO2 を25~30㎜ Hg に保つ.
b.浸透圧利尿薬
・ グリセオールは使いやすく,高Na 血症の他には大きな副作用はない.200mL を1日2 回から開始し,最高1,000~1,500mL/day まで投与可能.
・ マンニトールは即効性が高いがリバウンドや電解質異常が起こりやすい.
c.ステロイド
・ 脳転移に伴い浮腫がある場合は特に有効である.デキサメタゾン8~12㎎ /day を1 週間程度投与し,漸減していくことが多い.
2 )脊髄圧迫
①原因疾患,症候,頻度
・ 肺癌,乳癌,前立腺癌が多く,各20%前後を占める.
・ 背部痛が初発症状として多い.他に歩行障害,感覚障害,自律神経障害などがある.
・ これも婦人科がんでは骨転移が比較的少ないこともあり,稀であるが脊髄圧迫で発見された症例の報告がある11).
②診断
・ MRI が中心で,感受性44~93%,特異性90~98%とされる.
③治療
・ 放射線療法が中心になるが,必ず手術の適応について整形外科と検討する必要がある.
a.放射線照射
・ 回復例は不全麻痺例で43%,完全麻痺例で14%と報告されている.dose/fractionについて標準方法は確立していない.
b.ステロイド
・ 浮腫による悪化を防ぎ,照射と併用必要.デキサメタゾン100㎎ vs 10㎎:回復25% vs 8%(p = 0.22),維持デキサメタゾンvs なし:回復81% vs 63%(p = 0.046)との報告がある.
c.手術
・ 適応は照射既往・照射中の悪化,圧迫骨折など.除圧術+ RT の方がRT 単独より有効との比較試験がある.
3 )上大静脈症候群
①病態,症状,頻度
・ 腫瘍の上大静脈圧迫による症候群で,頭部・頸部・上肢の浮腫・うっ血・静脈拡張,喉頭・咽頭浮腫を来す.原因は肺癌が大半を占め, 婦人科がんでは稀である.
②診断
・ 造影CT にて静脈血栓症の鑑別,腫瘍の診断を行う.
③治療
a.保存的治療
・ ステロイド(デキサメタゾン4㎎ /6hrs),フロセミドなどが使われるが,明らかなエビデンスはない.
b.放射線照射
・ 肺小細胞癌の78%,非小細胞癌の63%で症状改善が見られる.
c.化学療法
・ 非ホジキンリンパ腫・肺小細胞癌の80%,肺非小細胞癌の40%で症状消失する.
d.ステント留置
・ 75~100%で48~72 時間以内に改善,再発率15%,合併症(感染,肺塞栓,出血,穿孔)
3~7%と報告されている.
4 )心囊水貯留(心タンポナーデ)12)
①病態,病因,頻度
・ 剖検においてはがん患者の10~15%で心囊水が認められる.大部分は肺癌,乳癌の転移によるが,他はリンパ腫,白血病,胸壁照射,化学療法などに伴う.婦人科がんでは稀であるが,種々のがん種で報告されている13, 14).
②診断
・ 呼吸困難,起坐呼吸,動悸,疲労,めまい;頻脈,気脈,頸部静脈怒張,脈圧低下など.心エコー,CT でほぼ診断可能.
③治療
・ タンポナーデ症状がある場合は心囊穿刺,心膜開窓を行う.30 日間のコントロール率は穿刺のみでは50%とされており,心囊内注入によるコントロール率はテトラサイクリン80~90%,ブレオマイシン75%,チオテパ0% , シスプラチン90%,OK- 432(ピシバニールⓇ)70%と報告されている.最近Bevacizumab の有効性も報告されている.
(3)治療に伴うオンコロジーエマージェンシー
1 )血管新生阻害薬に伴う出血15,16)
・ 種々の血管新生阻害薬の有効性が明らかになり卵巣癌,子宮癌でも用いられているが,その副作用の1 つとして出血が挙げられる.
・ 機序としては内皮細胞再生能力低下・アポトーシス誘導→血管脆弱化,細胞外基質の減少,血小板機能低下などが挙げられている.
・ リスク因子としては扁平上皮がん,血痰,食道静脈瘤などが挙げられている.
2 )免疫関連有害事象
・ PD- 1,PD-L1 などを阻害する免疫チェックポイント治療の有効性が明らかになっている.
・ 頻度は低いが劇症Ⅰ型糖尿病,副腎不全,心筋炎,脳炎(表31)などオンコロジーエマージェンシーとして対応が必要な有害事象が生じている.
薬による治療法:
全身倦怠感に対する薬の効果には限界がある。悪液質に伴って生じる倦怠感には、コルチコステロイドの投与が有効な場合がある。デキサメタゾンあるいはベタメタゾン2~4mg/日、プレドニゾロン15~30mg/日を経口投与する。投与後、1週間経っても効果が認められなければ中止する。全身倦怠感を主症状とする抑うつの場合は、抗うつ薬を投与する。
2)高カルシウム血症による症状
■診 断
症状は、食欲不振、全身倦怠感、口渇、便秘などにはじまり、進行するにしたがい、嘔気、嘔吐、傾眠、脱水、せん妄などが現れる。いずれも非特異的な症状であるため、高カルシウム血症の疑いを持たないと見逃す可能性がある。
診断には、血清総カルシウム値を次の式を用いて補正し、血清補正カルシウム値を求める。
血清補正カルシウム値10.3mg/dl 以上を高カルシウム血症と診断する。通常、血清補正カルシウム値12.0mg/dl 以上で症状が出現する。
■治 療
生命予後が月単位と予測される患者に高カルシウム血症が発生した場合、ビフォスフォネート製剤による治療が有効である。ビフォスフォネートが有効なときには血清カルシウム値が24~48時間後から低下し始める。