21世紀の知を読みとく ノーベル賞の科学 【生理学医学賞編】


つまりニトログリセリンは、一酸化窒素を介して血管を拡張させているのである。一九九〇年代、一酸化窒素は、血管拡張の他にも全身でさまざまな機能を支配するシグナルとして働いていることが明らかにされた。


ノーベル賞を獲得した「バイアグラの父」が発見〇〇がEDを解決する ; L-アルギニン

私たちの気づかないうちに、全身の血管でこのような反応が日々起こっているわけだ。この一酸化窒素は、実はニトログリセリンが分解されてできる物質でもある。

血管内皮(内側の壁)で一酸化窒素(NO)がつくられ、これがシグナルとなって血管平滑筋に作用する。すると、cGMP(サイクリックジーエムピー)という物質が増加し、これが筋肉を弛緩させる反応につながって血管が拡張する。

ノーベル生理学・医学賞を受賞されています。 UCLA医学部薬理学教授 イグナロ博士 Dr

そして圧巻は最終章。研究計画を綿密にピアレビューで審査し、研究管理としてPDCAサイクルを回すという近年流行りの制度が、大発見を阻害していると説得的に論じる。今ではちょっとした実験一つやるためにも、予算コードを書き込まないと設備も使えない。となると、フレミングのように遊ぶことはできず、自分を使ってカテーテルの人体実験をすることもできない。バイアグラを発見しても、計画外だといって評価されないかもしれない。

一酸化窒素に関わるシグナルのメカニズムを解明したアメリカの医師フェリド・ムラド、化学者ロバート・ファーチゴット、薬理学者ルイ・イグナロの三人は、一九九八年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

ノーベル賞受賞「バイアグラの父」 ムラド博士と中国の病院で懇親会

創立40周年記念出版の1冊です。ノーベル物理学賞は,2008年南部陽一郎氏,小林誠氏,益川敏英氏の3氏が受賞したことが記憶に新しいことでしょう。この賞は科学が人間に...

東京に戻ってからは今堀先生のもとで東大農学部の研究生となり、1974年に理学博士の学位を取得。そこから3年間、ロックフェラー大学のジェラルド・モーリス・エデルマン博士(抗体の化学構造に関する研究で1972年にノーベル生理学・医学賞受賞)の研究室に留学する。

ノーベル生理学・医学賞を受賞したニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。

創立40周年記念出版の1冊。他の部門よりずっと遅れて1969年に新設された経済学賞に対しては異論,反論が少なくない。理由のひとつは,経済学はノーベル賞が対象とする科...

PDE-5を阻害すれば、cGMPが分解されず、その量が増える。そうすると何が起きるか。一酸化窒素から始まる反応のプロセスを思い出すと、血管拡張が起きることがわかるだろう。


これらの功績により、ファーチゴット、F・ムラドとともに1998年のノーベル医学生理学賞を受賞した。 ..

1970年代に科学雑誌Cosmo創刊編集長を経て1982年より科学情報グループ「矢沢サイエンスオフィス((株)矢沢事務所)」主宰。内外の科学者・研究者,科学ジャーナリスト,編集者,翻訳者などのネットワークをつくり,アメリカ,ヨーロッパの取材を行いながら自然科学,エネルギー技術,医学,未来文明論,科学哲学,テラフォーミング等に関する情報執筆活動を続ける。「最新科学論シリーズ」37冊(学研),世界の第一線科学者へのインタビュー集『知の巨人』(学研),『ニューサイエンティスト群像』(勁草書房)などの一般科学書のほか,『ビームディフェンス』(時事通信社),『巨大プロジェクト』『B1戦略爆撃機』(談講社),『経済学のすべてがわかる本』(学研),『』『』『』(技術評論社),『日本人の精子力』(学研),『始まりの科学』(ソフトバンククリエイティブ)などの編著書を送り出してきた。がん医学書や動物医学書,科学図鑑も多い。

ノーベル賞の100年―自…ノーベル賞の100年―自然科学三賞でたどる科学史(中公… 馬場錬成/著馬場錬成/著

創立40周年記念出版の1冊。ノーベル化学賞の受賞内容は,現代の科学のテーマを象徴している。というのは,近年の科学を見渡すと,物理学や生物学といった従来の区分では...

(P19)これは硝酸でノーベル賞を貰ったイグナルが書いた本です。日本語に翻訳 ..

イグノーベル賞は、当初は疑似科学的な研究に対して皮肉をこめて与えられるケースがありました。たとえばホメオパシーの研究者ジャック・バンヴェニストは、1991年と1998年の二度にわたってイグノーベル化学賞を贈られています。

Campbell)博士と共に、2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞いたしました。 ..

創立40周年記念出版の1冊。生活に直結する重要な発見が多い医学生理学賞には、発見に至る経緯や人間関係に数々のドラマが存在する分野だ。テーマはピロリ菌の発見、神経成長物質の発見、たんぱく質プリオンの発見など流行にも左右されやすい。1980年代には免疫が注目され、90年代には細胞間や細胞内の分子生物学がしばしば対象となった。最近ではDNAに関連したものがとりわけ重視される。なかにはバイアグラの登場を可能にした循環器系の情報伝達物質の発見のような業績もある。このようなノーベル賞の内容と受賞者にスポットをあて、受賞内容と、なぜ彼らが栄誉に輝いたのかに迫る。

フェリド.ムラド アメリカの内科医 バイアグラを開発 一酸化窒素の発見 ノーベル賞を受賞 ウォーターハウス.フリードリヒセン症候群.

私がいた前田先生のラボは、隣が大西俊一先生のラボで、そことは論文や本を読む会を一緒に開いたり、また下の階が小関治男先生の部屋で、遠心機を借りに行ったりしていました。さすがに発生生物学の大家である岡田節人先生のところに出入りすることはあまりありませんでしたが、この3つの研究室の間には垣根があまりなく私は自由に出入りしていました。単に行き来するだけじゃなく、全く違う発想で研究している人に出会い議論するのは、とても魅力的で大事なことだと思います。日本の大学は研究室単位でまとまる傾向がありますが、そういう垣根を取り払って全部共用できるようなシステムを創らないと、日本の科学はなかなか発展しないんじゃないかという思いがあります。最近でこそiPS細胞研究所のようにオープンラボを備えるところが増えてきましたが。

2024年ノーベル化学賞を読み解く:計算でタンパク質の構造を予測し

こう見てくるとイグノーベル賞は、一見ユーモラスでありながら、その背後に重要な洞察が隠されている研究が選ばれていることがわかります。単なるパロディにとどまらず、科学界に影響力のある賞になっているのは、イグノーベル賞のこうした方針によるところが大きいのではないでしょうか。

ファイザー社は一九九六年、この新薬の特許を取り、一九九八年に勃起不全の治療薬「バイアグラ」として販売を開始した。 ..

Moncada博士(現ロンドン大教授)は,化学発光法を用いてEDRFの本体がNOであること(Nature 327:524,1987)を,翌年にはNOがl-アルギニンから生成されること(Nature333:664,1988)を発表した()。そしてIgnarro博士もEDRFがNOであることを1987年に発表しているが(Proc Natl Acad Sci 84:9265,1987),3名のノーベル賞受賞者の中にMoncada博士が選ばれなかったことに対する批判が英国の科学者の間から湧き上がっている(Nature 395:625,1998)。ノーベル賞授賞者の選考には常に最初の発見者が誰であるかが問われるが,1賞あたり3名以内の制限があるため,受賞をめざす研究者間の競争が熾烈になるのは当然であろう。この問題は本稿の主旨ではないので割愛させていただくが,この辺りの話題は『ノーベル賞ゲーム』(丸山工作編,岩波書店,1989)に詳しい。 表 NO研究の歴史
さてNOはl-アルギニン(Arg)からNO合成酵素(NO synthase:NOS)によって生成されるが,神経,マクロファージ,内皮では異なるNOSアイソフォームの存在が80年代末に明らかとなり,その生化学的同定が精力的に行なわれた。90年代初めには分子生物学的手技を導入して,まず神経型NOS(nNOS)が神経生理学者のSynderら(ジョンホプキンス大,1991年),翌年には内皮型NOS(eNOS)が循環器学者のMichelら(ハーバード大)やAlexanderら(エモリー大),誘導型NOS(iNOS)が免疫学者のNathanら(コーネル大)のグループによって一挙にクローニングされ,その構造が解明された()。
3種類のNOSアイソフォームの基本構造は同じで,C末端にはNADPHやフラビン(FAD,FMN)の結合部位を持ちシトクロームP-450レダクターゼと相同性を示す。中央部にはカルモデュリン(CaM)結合部位を,N末端にはヘム(H),l-Arg,テトラヒドロビオプテリン(BH4)の結合部位を持つ。すなわちNOSはN末端のオギゲナーゼドメインとC末端のレダクターゼドメインを共有する自己完結型酵素といえる。nNOSとeNOSはそれぞれ神経系と内皮に構成的に発現し,刺激因子によって細胞内Ca2+濃度が上昇すると直ちにCaM依存性にNOSが活性化される。Furchgott博士が観察したEDRFは実はアセチルコリンが内皮細胞のムスカリンレセプターを介してeNOSを活性化する結果,l-ArgからNOが生成,放出されたわけである。eNOSは他にもブラジキニン,エンドセリン,セロトニン,ヒスタミンなどのアゴニストやズリ応力によって同様の機序で活性化され,内皮依存性弛緩反応が生じる。一方iNOSは通常発現していないが,エンドトキシンや炎症性サイトカイン(IFN-γ,IL-1,TNF-αなど)が存在するとマクロファージをはじめとして広範な細胞で誘導され,Ca2+非依存性に大量のNOを生成する。 NOはガス状ラジカル物質であるため容易に細胞間を拡散し,標的分子に作用して多彩な生理活性を示す。その代表的なものが可溶性グアニル酸シクラーゼであり,ヘム基をニトロシル化して活性化するとcGMPが生成され,血管平滑筋弛緩や血小板凝集阻害をもたらす。NOは他にも非ヘム酵素(シスアコニターゼ,complex I,II,リボヌクレオチドレダクターゼなど)に作用してその酵素活性を阻害する。またスーパーオキシド(O2-)と反応してperoxynitrite(ONOO-)やヒドロキシラジカル(OH)といった毒性の強い酵素ラジカルを生成して細胞毒性を示す。したがってNOは生体にとって有益な作用と有害な作用という全く異なる2面性を持つことになる。このようにNOは従来のホルモン,神経伝達物質,成長因子,サイトカインといったレセプターを介して作用するのとは異なり,直接標的細胞に作用するきわめてユニークなガス状分子種といえる。さらにNOの作用も血管トーヌスの調節(eNOS),神経伝達(nNOS),免疫防御(iNOS)など臓器を超えて広範であるゆえに,その機能をめぐってあらゆる分野の研究者が関心を持ち精力的な研究が繰り広げられている。現在もNO関連論文は全科学論文の約1%を占めているという。1992年にScience誌がNOを“Molecule of the Year”に選んだ由縁である。
1993年には発生工学を導入してnNOS欠損マウス,1995年にはiNOSおよびeNOS欠損マウスが樹立されている。nNOS欠損マウスでは幽門狭窄症や易攻撃性,iNOS欠損マウスでは易感染性やエンドトキシンショック抵抗性,eNOS欠損マウスでは高血圧が主な表現型として観察されている。今後これらのNOS欠損動物を用いて,内因性NOの生理的役割と各NOSアイソフォームの役割分担が徐々に解明されてくるものと期待される。 NOは臨床分野でも大きな関心が寄せられている。高血圧,動脈硬化,高脂血症,糖尿病などの内皮障害を伴う病態では,eNOSの活性低下により血管障害の進展に関わっていることが明らかになってきた。現在,降圧作用だけでなく血管保護作用をめざして,eNOSの作用を増強する薬剤の開発とその臨床応用が試みられている。麻酔科領域では新生児や先天性心疾患による肺高圧に対する治療としてNOの吸入療法はすでに取り入れられている。最近話題のインポテンツ治療薬(バイアグラ)はもともとV 型フォスフォジエステラーゼ阻害薬として開発されたものだが,陰茎でのNOによるcGMP分解を制御することによって勃起現象が持続することが明らかとなった。硝酸薬を服用する患者ではNOの過剰作用が出現する危険性があるので,当然本剤の併用は禁忌である。nNOS特異的阻害薬による虚血性脳梗塞やパーキンソン病モデルでの治療研究も進行中である。またiNOS特異的阻害薬は敗血症性ショックや炎症の治療薬として期待されている。生体内のNOは生理量では有益である反面,過剰量では有害という2面性を持つことから,NOドナーやNOS阻害薬の開発はNOSアイソフォームの生理的な役割分担を理解したうえでの臨床応用が必要と言えよう。 ノーベルはニトログリセリンを材料としてダイナマイトを発明し巨万の富を築いた。当人も狭心症の持病があり,医師からニトログリセリンの服薬を勧められていたが拒否していたという。約100年後にニトログリセリンの作用がNOガスによることが明らかにされ,その発見者にノーベル賞が与えられるというのも何かの因縁を感じさせる。

世界中で話題になっているバイアグラ(これは商品名で一般名はシルデナフィルと ..

科学者にして小説家
ピルの父・ジェラッシによるバイオテク小説

「いい薬ができました」
バイアグラに匹敵する薬の開発とFDA承認、ベンチャー企業の立ち上げと訴訟合戦、そして勝利へと若い女性の大活躍を描く。彼女の夫もこの薬を必要としたのだろうか?――これは小説です

全米3 000万人、日本980万人が悩むED(勃起不全)障害に有効な薬の開発を目指し、恋人を実験台にしたとんでもない失敗から、ストックオプション、IPO、株主訴訟など、「男たちの薬」の開発と企業化に挑む若き女性研究者の波乱に満ちた物語。バイアグラ開発のきっかけとなった1998年ノーベル医学生理学賞受賞の「体内における一酸化窒素NOの作用」を題材に、研究開発の内幕、米国におけるベンチャー企業の内情をユーモラスに描く。

ニトログリセリンという薬は,ノーベルにノーベル賞を作らせ,ノーベル賞を創設した.

Murad米テキサス大教授の薬理学者3氏に授与されることが発表された。その授賞理由は「循環器系における信号伝達分子としての一酸化窒素(NO)の発見」である。1996年には米国のラスカー賞をFurchgott,Murad両博士が授与されていたことから,ノーベル賞の決定も間近であろうと予想されていたが,NOに関する研究が今や生命科学の分野で爆発的な勢いで発展している現状でその発見者に授与されるのは当然と言えよう。
本稿ではNOの発見に至る経過,歴史的背景,および今後の展望について述べてみたい。 Furchgott博士は摘出血管を用いて薬物の弛緩反応を研究していたが,古くからアセチルコリンを生体に投与すると血管拡張作用が生じるのに,摘出血管に投与すると逆に収縮作用が観察されることに疑問を抱いていた。このようなアセチルコリンの収縮作用は従来の血管のラセン標本を用いる場合にみられたが,新しく輪状標本を用いると弛緩作用が観察されるようになった。彼はイソプロテレノールの弛緩作用をみる目的でテクニシャンに血管標本を先にノルエピネフィリンで収縮を起こした後,十分洗浄して次にアセチルコリンの収縮反応を観察するというプロトコールを指示した。ところがアセチルコリンでは弛緩作用が起こってしまうとテクニシャンが彼の元に報告に来たが,よく聞いてみるとノルエピネフィリンの収縮後,洗浄操作を怠っていたことが判明した。すなわちノルエピネフィリンの前収縮の後にアセチルコリンを投与すると常に弛緩反応が観察され,しかも標本作製の際に内膜を傷つけやすいラセン標本より輪状標本で多くみられることから,この弛緩反応は内膜の存在が重要ではないかと推測した。そこで内膜が無傷の標本と擦過した標本を用いて比較してみると,アセチルコリンは前者では弛緩反応,後者では収縮反応がみられた。彼の予想は見事に的中したわけで,その間のいきさつは彼自身の手による逸話に詳しい(Circulaton 87〔SupplV〕:V-3,1993)。彼はこの物質を新たに内皮由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)と命名した(Nature 288:373,1980)。EDRFの発見はまさにテクニシャンのミスが発端とはいえ,やはり彼の科学者としての鋭い洞察力と実験結果をアーチファクトとして片づけず,その原因を執拗に追求した研究者としての探求心によるものと言えよう。
一方,Murad博士(当時バージニア大)はニトログリセリンを代表とする硝酸薬の血管弛緩作用を研究する中で,硝酸薬がNOを放出し血管平滑筋の可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP(cGMP)を生成することによって弛緩反応が起こることをすでに1977年に見出していた。しかしその生理的意義が不明なため,あまり注目を浴びなかった。19世紀から抗狭心症薬として広く用いられていたニトログリセリンの作用機序は長く不明であったが,その突破口になったのは彼の発見によるところが大きい。 EDRFは不安定な物質で半減期が数秒ときわめて短いため,その化学的同定は困難を極めていた。しかし,Furchgott博士とIgnarro博士らの研究グループは全く独立して1986年,米国ロチェスターで行なわれた国際学会でEDRFとNOの薬理学的相同性から両者は同一の物質であると提唱し,1988年に単行本「Mechanism of Vasodilatation」(P.M.

僕は大学の講義で,よくバイアグラの話をする.「EDを治療してくれる薬だ」と ..

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。