[PDF] ホルスタイン種雄子牛のメラトニン分泌に及ぼす効果
そこで本研究グループは、人より均一なデータの得られやすいウシをモデル動物として用いることにした(図1)。家畜であるウシは一様に飼育管理されており、栄養状態に大きなばらつきが生じにくい。100%人工授精による繁殖管理であるので、遺伝的多様性も人に比べて均一にすることができる。さらに、人工授精実施日と出産日から妊娠期間を正確に求めることができる。しかもウシの妊娠期間は約280日で、人と近い。農家によっては月光をさえぎる壁や夜間照明のない環境でウシを出産させるため、より自然な状態で分娩したデータを集めることもできる。
L トリプトファン(トリプトファン L‑Tryptophan) を静脈内投与する時間帯の相違が子牛のメラトニン
以上の結果より、これまで関係がありそうだと言われてきた月齢周期とウシの出産との間に関連があることが統計学的に初めて示された。本研究では原因までは明らかにされていないが、仮説として月による重力、潮の干満、月光などによる影響などが考えられる。確かに月齢による重力変化は潮の干満のような地球規模の質量のものに関しては影響をもたらすことが知られている。しかし、月によって変化する重力は地球の重力の30万分の1程度であり、天文学的視野からすれば極めて質量の小さい人やウシがこの重力変化に本当に反応できるかは疑問が残る。一方、月光を含む光への暴露時間が動物の内分泌に影響を与えることは複数の報告がある。なかでもメラトニンは、満月の時期になると血中濃度が低下すること、メラトニンの分泌は妊娠中に徐々に増加し、分娩時に激しく低下することがそれぞれ報告されている(注1)。そこで本研究グループは月光によるメラトニンの分泌低下が満月の出産数増加に関与していると仮説を立て、さらなる研究を計画している。「満月の近づく頃に出産数が増える」という本研究の成果は、出産メカニズムの深い理解や、産科医、農家、妊婦らが出産前後の計画を立てるのに有益な情報となることが期待される。
産科医やウシの農家は「満月の頃に出産数が増える」という実感をもっているが、これが科学的かつ明確に示された報告はない。むしろ人では否定的な結果がいくつも報告されている。しかし、人は栄養状態や社会環境などによる個体差が大きいため、こうした研究で有効な結論を得ることはとても難しい。そこで東京大学大学院農学生命科学研究科の米澤智洋准教授らの研究グループは、人より均一なデータの得られやすいウシをモデル動物として研究を行った(図1)。
北海道石狩地区の夜間照明のない牛舎で一様に飼育管理されたホルスタインのべ428頭の出産日と月齢周期の関係を調べたところ、以下の2点が明らかになった。
(1)満月の前から満月にかけての3日間、ウシの出産数が有意に増加した(図2)。
(2)その変化は初産牛に比べて経産牛で顕著だった。
本研究では原因までは明らかにできていない。本研究グループは、月光によるメラトニン(注1)の分泌変化が関与していると仮説を立てて、さらなる研究を計画している。「満月が近づくと出産数が増える」という本研究の成果は、出産メカニズムの深い理解や、産科医、農家、妊婦らが出産前後の計画を立てるのに有益な情報となることが期待される。
ズムがあります。従って日が短くなってくると牛の松果体も沢山のメラトニンを分泌するように
東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 獣医臨床病理学研究室
准教授 米澤智洋(よねざわともひろ)
Tel:03-5841-3096
Fax:03-5841-8187
研究科HP:
1 ng/dl で卵割した受精卵のその後の胚発生率が高くなる傾向を示しました(表1)。
②血中メラトニン濃度と採卵成績(正常卵率,変性卵率,未受精卵率)との間に相関は認められませんでした。
③メラトニン経口投与では投与後1時間後をピークに血中メラトニン濃度は上昇し,その後低下しました。採卵成績についてはメラトニンを投与した場合に,正常卵率が有意に上昇したことから,メラトニンの経口投与により卵品質が改善される可能性が示されました(表2)。
④ ASMT およびMTNR1Aは卵母細胞および卵丘細胞で,MTNR1Bは卵母細胞のみで発現していました。また,卵母細胞及び卵丘細胞でのASMTの発現について日齢と負の相関が認められたことから,卵巣ではウシの 老化によりメラトニン合成量が減少する可能性が示されました。